ストレスチェック制度は、労働者自身がストレス状態に気づき、必要に応じて医師の面接指導や相談につながること、そして職場単位で集計・分析し、職場環境を改善することを目的とした制度です。人事が個人のメンタル不調者を探すための仕組みではありません。
- 常時50人以上の労働者を使用する事業場では、ストレスチェックを毎年1回実施する義務があります。
- 50人未満の事業場も、2028年4月1日から実施が義務化されます。
- 個人結果は、本人の同意なく事業者へ提供されません。
- 実施から高ストレス者の面接指導、集団分析、職場環境改善までを一連の制度として設計します。
ストレスチェック制度の目的

制度の目的は、一次予防です。労働者に自らのストレス状態を気づかせ、セルフケアや医師面接につなげるとともに、部署・職場単位の傾向から、長時間労働、業務量、人間関係、役割の不明確さなどの職場要因を改善します。
したがって、個人の結果を人事評価・配置判断の材料にすることや、受検しない社員を不当に扱うことは制度趣旨に反します。
対象企業:50人の壁と2028年の制度変更
| 事業場の規模 | 2026年7月時点の扱い | 今後の扱い |
| 常時50人以上 | 毎年1回の実施が義務。実施後の報告も必要。 | 継続して義務。 |
| 常時50人未満 | 現時点では努力義務。 | 2028年4月1日から義務化。小規模事業場向けの実施体制を準備する。 |
人数は会社全体ではなく、原則として事業場単位で確認します。拠点が複数ある企業は、本社・支店・工場などの事業場区分と常時使用する労働者数を整理してください。
制度の全体像:実施から改善までの7ステップ
| ステップ | 会社が行うこと | 主な関係者 |
| 1. 方針決定 | 実施時期、対象、実施方法、個人情報取扱いを決める。 | 事業者、人事、衛生委員会、産業医 |
| 2. 衛生委員会で審議 | 実施者、共同実施者、結果提供、面接・集団分析の運用を審議する。 | 衛生委員会 |
| 3. 実施準備 | 受検案内、実施者設定、システム・質問票、相談窓口を整える。 | 人事、実施者、委託先 |
| 4. ストレスチェック実施 | 労働者が回答。結果は実施者から本人へ通知。 | 実施者、労働者 |
| 5. 高ストレス者の面接指導 | 本人の申出に基づき医師面接を実施する。 | 本人、医師、事業者 |
| 6. 集団分析 | 部署・職場単位で傾向を分析する。 | 実施者、産業医、人事 |
| 7. 職場環境改善 | 分析結果をもとに改善策を決め、効果を確認する。 | 管理職、人事、衛生委員会 |
誰が実施できるか:実施者・共同実施者の考え方
実施者は、医師、保健師、または一定の研修を修了した看護師・精神保健福祉士等が担います。外部委託は可能ですが、事業者は実施者任せにせず、衛生委員会で実施方法・情報管理・面接導線を整理します。
個人結果の取扱い:人事が勝手に見られない理由
個人結果は、本人の同意がない限り、実施者から事業者へ提供してはならないとされています。人事は「高ストレス者の氏名を知りたい」と考えがちですが、制度上は本人のプライバシー保護が優先されます。
| 情報 | 事業者の取扱い |
| 個人のストレスチェック結果 | 本人同意がない限り、原則として取得不可。 |
| 高ストレス者の面接申出 | 本人が申出た場合に、面接実施のため必要な範囲で把握する。 |
| 医師面接後の意見 | 就業上の措置に必要な範囲で受け取る。 |
| 集団分析結果 | 個人特定を避けた形で、職場改善のため活用する。 |
実施後に必要なこと
- 高ストレス者へ、医師面接の申出方法と期限を分かりやすく案内する。
- 面接申出者には、事業者が医師面接の機会を提供する。
- 面接後は、医師の意見を踏まえ、必要な就業上の措置を検討する。
- 集団分析を行い、部署単位の業務量、裁量、人間関係、支援体制等を見直す。
- 実施状況を、所轄労働基準監督署へ所定様式で報告する(50人以上の事業場)。
失敗しやすい運用
- 「受検率を上げること」だけが目的になり、結果後の相談・改善導線がない。
- 人事が個人結果を集めようとし、従業員の信頼を失う。
- 高ストレス者の面接案内が分かりにくく、申出につながらない。
- 集団分析を実施しても、管理職へ渡すだけで対策を決めない。
- 衛生委員会で実施方法を審議せず、外部ベンダーに丸投げする。
よくある質問

Q. パート・契約社員も対象ですか?
A. 常時使用する労働者に該当するかを基準に判断します。雇用形態だけで一律に除外せず、所定労働時間や契約期間なども踏まえて確認してください。
Q. 受検を拒否する社員に受検を強制できますか?
A. 制度上、労働者に受検義務を課すものではありません。受検しやすい案内、匿名性への配慮、相談窓口の周知により受検率を高めます。
Q. ストレスチェックの結果は人事評価に使えますか?
A. 使用すべきではありません。制度目的に反し、個人情報・不利益取扱いの問題を生じさせます。
まとめ
ストレスチェックは、年1回のアンケートではなく、個人のセルフケア、高ストレス者への支援、集団分析による職場環境改善を結ぶ産業保健施策です。制度の設計段階から産業医・衛生委員会・人事・管理職の役割を明確にしてください。
参考法令・公的資料
- 労働安全衛生法 第66条の10
- 労働安全衛生規則 第52条の9〜第52条の21
- 厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」
- 厚生労働省「こころの耳:ストレスチェック制度について」
- 厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」
