産業医面談の記録を「すべて5年間保存すればよい」と考えるのは正確ではありません。長時間労働者への面接指導など、法令上5年間の保存が求められる記録がある一方、任意の健康相談や復職面談では、一律の保存年限が明示されていないものもあります。重要なのは、記録の種類ごとに根拠を整理し、必要最小限の情報だけを、アクセス権限を限定して管理することです。
- 長時間労働者等への法定の面接指導結果の記録は、原則5年間の保存が必要。
- 一般健康診断の結果も、事業者は原則5年間保存する。
- 任意の産業医面談は、一律の法定保存年限がない場合があるため、目的・規程・紛争リスクを踏まえた社内基準が必要。
- 記録には病名や詳細な私生活情報を過剰に残さず、就業上の措置に必要な範囲へ絞る。
目次
まず整理したい:面談記録には複数の種類がある

| 記録の種類 | 主な内容 | 保存の考え方 |
| 長時間労働者等への面接指導結果 | 実施日、対象者、医師、疲労蓄積・心身状況、医師の意見、措置 | 事業者は原則5年間保存 |
| 健康診断結果・事後措置 | 健診結果、医師意見、就業上の措置 | 事業者は原則5年間保存 |
| 復職面談・就業配慮面談 | 復職条件、勤務制限、配慮事項、見直し時期 | 一律の法定年限はない場合がある。就業規則・社内規程に基づき、必要最小限で定める |
| 任意の健康相談 | 相談の目的、本人同意、就業上の助言 | 詳細な医療情報を会社が保有しない設計も検討。産業医側記録と会社側記録を分ける |
法定の面接指導記録で押さえるべき事項
長時間労働者への面接指導では、事業者は面接指導の結果に関する記録を作成し、5年間保存する必要があります。記録には、実施年月日、労働者の氏名、面接指導を行った医師の氏名、労働者の疲労の蓄積状況、心身の状況、医師の意見などを整理します。面談内容を逐語的に記録することが目的ではありません。
会社が保管すべき情報と、産業医側に留める情報
| 会社が保管することが多い情報 | 産業医側に留めることが望ましい情報 |
| 面談の実施日・対象区分・実施者 | 詳細な病歴、治療経過、家族関係、私生活上の事情 |
| 就業上の措置に必要な意見(残業制限、夜勤免除、短時間勤務等) | 面談で語られた細かな症状、心理検査内容、治療の詳細 |
| 措置内容、開始日、見直し日、本人への説明記録 | 職務と直接関係しない健康情報 |
| 法令・規程に基づく必要書類 | 産業医の診療録・専門的判断の内部メモ |
記録簿に入れるべき最低限の項目
- 対象者の氏名・社員番号など、本人特定に必要な最小限の情報
- 面談日、面談の種類(長時間労働、復職、健康相談等)、実施者
- 面談に至った経緯・制度上の根拠
- 会社へ共有する就業上の意見と、実施する措置
- 措置の開始日、終了日または見直し予定日
- 本人への説明・同意の状況、次回確認の予定
- 記録の作成者、保管場所、閲覧権限
保存期間を決める際の実務ルール
- 記録を種類別に棚卸しする。健診、法定面接指導、ストレスチェック、復職面談、任意健康相談を一括りにしない。
- 法定保存がある記録は、その年限を下限として管理する。
- 任意面談の会社保管分は、就業規則、休職・復職規程、個人情報保護方針、紛争対応の必要性を踏まえて保存年限を定める。
- 保存年限が過ぎた記録は、復職後のフォローや係争の有無を確認した上で、復元困難な方法で廃棄する。
- 保存中も、閲覧者・閲覧目的・持ち出し・複製のルールを設け、定期的にアクセス権限を見直す。
よくある管理ミス
| 管理ミス | リスク | 改善策 |
| 人事共有フォルダに面談メモを置く | 閲覧範囲が広がり、漏えい・目的外利用につながる | 専用フォルダと権限設定を設け、閲覧ログを管理する |
| 面談内容を詳細に議事録化する | 不要な健康情報を会社が保有することになる | 就業上の措置に必要な結論・根拠へ絞る |
| 保存年限を決めない | 過剰保管・廃棄漏れ・紛争時の不整合が生じる | 記録類型ごとに保管・廃棄基準を文書化する |
| 本人への説明がない | 不信感、面談忌避、情報共有トラブルにつながる | 面談目的、共有範囲、保管方法を事前に説明する |
面談記録の管理チェックリスト

- 記録の種類ごとに法定保存の有無と年限を確認している。
- 会社保管分と産業医保管分の役割を分けている。
- 閲覧者、閲覧目的、保管場所を明確にしている。
- 面談記録に不要な診断名・私生活情報を記載していない。
- 就業上の措置と見直し時期が追える。
- 保存期間満了後の廃棄方法と担当者が決まっている。
よくある質問
Q. 産業医面談の録音データも保存すべきですか?
A. 原則として、録音を常態化する必要はありません。録音する場合は、目的・保管期間・閲覧範囲を本人に説明し、必要性を慎重に検討します。
Q. 退職した社員の面談記録はいつまで残しますか?
A. 法定保存がある記録はその年限に従います。それ以外は、社内規程や紛争対応の必要性を踏まえて定めます。無期限保管は避け、定期的に見直します。
Q. 上司は面談記録を閲覧できますか?
A. 原則として、上司に必要なのは業務上の配慮事項であり、詳細な面談記録ではありません。共有は必要最小限に限定します。
まとめ
産業医面談記録の管理では、「5年保存」という数字だけでなく、記録の根拠・目的・情報の粒度・アクセス権限を分けることが重要です。会社は就業上の措置に必要な情報を適切に保有し、産業医は医学的な詳細情報を専門職として管理する。この役割分担が、従業員の信頼と会社の安全配慮の両立につながります。
参考資料
- 厚生労働省「面接指導等の実施方法と確認事項」
- 労働安全衛生法・労働安全衛生規則(健康診断・面接指導関係)
- 個人情報保護委員会「雇用管理分野における個人情報保護」
