スタートアップでは、採用、資金調達、プロダクト開発、顧客対応が優先され、従業員の健康管理は後回しになりがちです。しかし、人員が急増する局面ほど、長時間労働、役割の曖昧さ、管理職不足、メンタル不調、休職・離職が同時に起きやすくなります。
従業員50人未満の事業場では、原則として産業医の選任義務はありません。一方で、50人に達してから急いで契約・届出・衛生委員会・ストレスチェックに対応すると、体制整備が後追いになります。成長段階に合わせて、必要な産業保健機能を先に作ることが重要です。
- 50人未満でも、健康管理の課題があれば産業医・産業保健の相談を検討できる
- 急成長時は、労働時間・管理職負荷・休職対応の仕組みを早めに整える
- 産業医は「制度対応」だけでなく、経営・人事が個別問題を抱え込まないための専門的な相談先になる
- 小規模事業場は地域産業保健センター等の支援も活用できる
スタートアップで産業保健が後回しになりやすい理由

スタートアップでは、少人数の間は代表・人事・管理職が近く、問題が起きても個別に対処できているように見えます。しかし、組織が拡大すると、従業員の不調や労働時間の問題を「本人の自己管理」や「上司の気遣い」に任せる運用は限界を迎えます。
| 急成長時に起きやすい変化 | 健康・労務上のリスク |
| 採用人数が急増する | オンボーディング不足、役割不明確、適応不良 |
| 管理職が不足する | 1on1や勤怠確認が形骸化、相談が遅れる |
| 開発・営業の繁忙が続く | 長時間労働、睡眠不足、離職・休職リスク |
| 拠点・リモート勤務が広がる | 孤立、情報格差、健康状態の把握不足 |
| 組織変更が頻繁 | 不安・不信、ハラスメント、心理的安全性の低下 |
「50人の壁」を待たずに整えたい4つのこと
1. 労働時間を見える化する
勤怠データを単に給与計算に使うのではなく、長時間労働、深夜勤務、休日取得、連続勤務を人事・経営が定期的に確認する仕組みにします。
2. 不調・休職時の相談導線を作る
本人、上司、人事がどこに相談するかを決めます。産業医、外部相談窓口、EAP、主治医との連携など、状況に応じた窓口を整えることが重要です。
3. 管理職の初動を標準化する
部下の不調に気づいたとき、上司が診断名を聞き出そうとしたり、無理に励ましたりするのではなく、人事・産業保健へつなぐ行動基準を周知します。
4. 50人到達時の制度対応を逆算する
事業場単位の人数を定期確認し、産業医選任、衛生管理者、衛生委員会、ストレスチェックの準備を逆算します。到達直前に慌てないよう、候補者探しや契約内容の検討は早めに始めます。
成長段階ごとの産業保健の考え方
| 組織の段階 | 優先すること | 産業医・外部支援の使い方 |
| 〜30人 | 勤怠把握、相談窓口、管理職の初動 | スポット相談、地域産業保健センターの活用を検討 |
| 30〜50人 | 50人到達の見通し、規程・責任者・委員候補の準備 | 産業医候補の選定、契約条件の整理 |
| 50〜100人 | 法令対応と個別案件対応の同時運用 | 嘱託産業医、衛生委員会、ストレスチェックを定着 |
| 100人超 | 多拠点・管理職層・休職対応の標準化 | 産業医+保健師・EAP等を含む体制設計 |
小規模事業場が利用できる支援
50人未満の小規模事業場でも、地域産業保健センターでは、長時間労働者や高ストレス者に対する医師の面接指導等の産業保健サービスが提供されています。全ての課題を無料支援で賄えるわけではありませんが、初期相談や制度導入の入口として確認する価値があります。
早めに外部相談を検討したいサイン
- 休職者・離職者が続いている
- 月80時間を超える時間外労働が発生している
- 代表や人事が健康問題の相談を抱え込んでいる
- 複数拠点・リモート勤務で社員の状態を把握しづらい
- ハラスメントや人間関係の相談が増えている
産業医に依頼する際の最初の相談事項

- 現在の人数と、6〜12か月後の採用見込み
- 勤務形態:出社、リモート、フレックス、夜勤、シフト
- 長時間労働・休職・メンタル不調の発生状況
- 人事・管理職の役割分担と相談ルール
- 産業医に求める範囲:面談、衛生委員会、健診後措置、研修、緊急相談
よくある質問
Q. 50人未満なら産業医は不要ですか?
A. 選任義務は原則としてありませんが、健康管理等を行うために必要な知識を有する医師等の活用は努力義務とされています。課題の内容に応じて、地域産業保健センターや外部の産業医への相談を検討できます。
Q. スタートアップでは、いつから産業医を探すべきですか?
A. 50人到達が見込まれる時点、または休職・長時間労働・組織急拡大などの課題が表面化した時点が目安です。選任義務の直前ではなく、契約条件や運用設計に時間を取れる段階で始める方が安全です。
Q. 産業医だけでメンタルヘルス対策はできますか?
A. 産業医は重要な役割を担いますが、日常の勤怠管理、管理職教育、相談窓口、人事制度、職場環境改善は会社側の役割です。必要に応じて保健師、EAP、社労士等とも連携します。
- 厚生労働省「労働者数50人未満の小規模事業者の方」
- 厚生労働省「産業医ができること」
- 厚生労働省「小規模事業場における健康管理について」
