ハラスメント相談は、事実関係がまだ不明な段階でも、被害を訴える従業員の心身の安全と職場の安定に影響します。人事は「すぐに結論を出す」ことよりも、相談窓口としての中立性を保ち、相談者の安全確保、記録、調査体制の設計を先行させることが重要です。産業医は、被害者・相談者の健康面の評価と就業配慮を担う専門職であり、加害認定や懲戒判断の主体ではありません。
- パワハラ・セクハラは、事実認定の前でも相談者の安全確保と不利益取扱い防止を優先する。
- 産業医の役割は、心身の健康評価、必要な就業配慮、医療受診・休業等の助言である。
- 調査、加害認定、懲戒・配置判断は、人事・法務・外部専門家を含む会社の体制で行う。
- 相談記録、対応経過、措置の理由を残し、必要最小限の関係者に限定して管理する。
ハラスメント相談を受けた直後に優先すること

- 相談者の安全を確認する。加害者と接触する場面、同一シフト・同一会議・出張などを当面どう扱うかを確認する。
- 相談内容を時系列で記録する。発言・行為、日時、場所、関係者、証拠の有無、これまでの相談歴を整理する。
- 相談者の意向を確認する。ただし、調査や安全配慮が必要な場合に会社が何もしないと約束してはいけない。
- 相談者に不利益な取扱いをしない。相談したこと自体を評価・配置・雇用継続の不利益に結びつけない。
- 調査担当と連絡窓口を明確にする。利害関係者や直属上司だけに任せない。
産業医と連携する場面
| 場面 | 産業医に依頼すること | 人事・法務が担うこと |
| 不眠・食欲低下・不安などがある | 健康状態、勤務継続の可否、就業配慮の意見を確認 | 業務量・配置・勤務時間を調整し、必要な受診支援を行う |
| 相談者が休職を希望している | 休業の医学的必要性や復職までの留意点を意見として確認 | 就業規則に沿って休職手続、連絡方法、給与・休業給付の案内を行う |
| 加害・被害の双方が同じ部署にいる | 接触回避や一時的な配置・勤務調整の必要性を助言 | 調査の中立性を確保し、業務上必要な暫定措置を決める |
| 組織的なストレスが疑われる | 個人情報に配慮しつつ、職場環境上のリスクを助言 | ライン管理、業務配分、会議運営、教育の見直しを行う |
産業医に任せてはいけないこと
- 誰が加害者か、どの供述が真実かを産業医だけに判定させること。
- 懲戒、解雇、異動の是非を医学的意見だけで決めること。
- 相談者の診療情報を、調査目的で無制限に人事・上司へ共有させること。
- 産業医面談を「被害申告が正しいかを見極める場」として利用すること。
初動対応の実務フロー
- 相談受理:相談者の希望、緊急性、身体・精神症状、接触リスクを確認する。
- 暫定措置:席・シフト・指揮命令系統・会議参加など、必要最小限の接触回避策を検討する。
- 産業医連携:本人の同意を基本に、健康面と就業配慮について面談を案内する。緊急性が高い場合は受診を優先する。
- 事実調査:双方と関係者から、先入観を持たず事実を聴取し、客観資料を確認する。
- 判断・措置:認定の有無にかかわらず、職場環境の改善、教育、配置、フォローを実施する。
- フォロー:相談者への報告、再発・報復の有無の確認、健康状態の継続支援を行う。
注意したい実務上の落とし穴
| よくある対応 | 問題点 | 見直し方 |
| 直属上司だけに任せる | 二次被害や握りつぶしの懸念がある | 人事・法務・外部窓口を含む複線の相談ルートを置く |
| 「証拠がないから対応できない」と伝える | 安全配慮や職場環境調整まで止まりやすい | 事実認定とは別に、暫定的な接触回避・健康配慮を検討する |
| 産業医へ調査を丸投げする | 役割を超え、健康情報の目的外利用になり得る | 産業医は健康支援、調査は会社の調査体制で分担する |
| 相談内容を広く共有する | プライバシー侵害、報復・二次被害につながる | 共有範囲・目的・保管者を限定し、記録を管理する |
よくある質問
Q. 相談者が「誰にも言わないでほしい」と求めたら?
A. 秘密保持の希望を尊重しつつ、生命・身体の安全確保や職場環境の是正が必要な場合には、必要最小限の範囲で会社が対応する可能性を説明します。
Q. 産業医面談を本人が希望しない場合は?
A. 強制ではなく、目的と情報共有の範囲を説明した上で案内します。面談を受けない場合でも、会社は業務量や接触リスクなど、把握できる情報に基づく安全配慮を検討します。
Q. 加害者とされる社員にも産業医面談は必要ですか?
A. 健康不調や就業上の配慮が必要な場合は検討しますが、事実認定・指導・懲戒の代替ではありません。被害者支援と調査の中立性を損なわない運用が必要です。
まとめ

ハラスメント対応では、被害者・相談者の健康と安全を守ること、相談を理由とする不利益取扱いを防ぐこと、事実確認と健康支援の役割を分けることが基本です。産業医は、相談者の就業継続や休業、勤務配慮を医学的に支える役割を担います。調査・法的評価・懲戒は人事・法務の責任として、必要に応じて社労士・弁護士などと連携して進めます。
参考資料
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
- 厚生労働省「あかるい職場応援団」
- 厚生労働省「労働施策総合推進法に基づくパワーハラスメント防止措置」
