メンタル不調がある従業員への対応では、「勤務が難しそうだから退職してもらう」という発想は極めて危険です。解雇の有効性は、病状だけでなく、休職制度の運用、復職可能性、業務上の配慮、配置転換の検討、会社の説明過程などを総合して判断されます。産業医は医学的な就業意見を示す立場であり、解雇の可否を決める者ではありません。
- メンタル不調そのものを理由に直ちに解雇する判断は、無効と判断されるリスクが高い。
- 休職制度、復職基準、配置・勤務配慮、主治医・産業医の意見、本人への説明を順に検討する。
- 産業医の「就業困難」意見は、医学的意見の一つであり、解雇判断を自動的に正当化しない。
- 解雇・退職勧奨を検討する局面では、就業規則と個別事情を踏まえ、労務専門家・弁護士への相談が必要である。
目次
なぜメンタル不調を理由とした解雇はリスクが高いのか

労働契約法では、解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない場合には無効とされます。メンタル不調のケースでは、症状の回復可能性、休職期間の残り、復職支援の有無、業務上の原因や職場環境、配置転換の可能性などが争点になりやすく、会社が十分な検討を尽くしたかが問われます。
解雇を検討する前に確認すべき7項目
- 就業規則の休職・復職・自然退職条項を確認する。休職期間、復職要件、満了時の扱いを、実際の運用も含めて整理する。
- 私傷病か、業務との関連が疑われるかを確認する。長時間労働、ハラスメント、配置・評価との関係がある場合は、労災・安全配慮義務の問題も含め慎重な対応が必要となる。
- 主治医・産業医の意見を確認する。病名だけでなく、就業可能な条件、療養期間、再評価時期を具体化する。
- 休職、短時間勤務、残業・夜勤制限、在宅勤務、業務量調整、配置転換など、代替手段を検討する。
- 本人との面談を行い、復職意思、治療状況、希望する配慮、連絡方法を確認する。
- 復職判定とフォローのルールを一貫して運用する。特定の社員だけに恣意的な基準を適用しない。
- 判断過程を記録する。検討した選択肢、できなかった理由、専門家の意見、本人への説明を残す。
産業医の意見の位置づけ
| 産業医が示すこと | 会社が別途判断すること |
| 就業可否、勤務時間・業務量・夜勤などの就業制限、再評価時期 | 休職命令、配置、復職の可否、雇用継続・退職に関する労務上の判断 |
| 健康悪化や再発のリスク、必要な受診・療養の助言 | 就業規則の適用、代替業務の有無、組織運営上の調整 |
| 職場配慮の医学的妥当性 | 解雇・退職勧奨の法的相当性 |
特に慎重に扱うべきケース
- ハラスメント、過重労働、配置転換、評価・降格など、職場要因との関連が主張されている。
- 休職中に会社側から頻繁な連絡や復職圧力があり、療養環境を損ねた可能性がある。
- 主治医が復職可能とし、本人も復職意思を示しているが、会社が配慮可能性を十分に検討していない。
- 障害者雇用や合理的配慮の論点も含む可能性がある。
- 退職勧奨と解雇の区別が曖昧で、本人に選択の余地がない形になっている。
人事が避けるべき言動
| 避けるべき言動 | 問題になりやすい理由 |
| 「もう元の仕事はできないなら辞めてください」 | 復職支援・配置配慮の検討不足、退職強要と受け取られるおそれ |
| 「産業医が無理と言ったので解雇です」 | 産業医意見を解雇判断に短絡させている |
| 「診断書が出ないなら休職も認めない」 | 社員の状況に応じた適切な確認をせず、手続を硬直的に運用している |
| 「休職期間中なので評価を下げる」 | 制度運用や不利益取扱いとの関係で問題になる可能性がある |
解雇検討前の実務チェックリスト

- 休職制度と復職基準を確認した。
- 主治医・産業医の意見と職務情報を整理した。
- 業務量、勤務時間、配置、在宅勤務等の代替案を検討した。
- 業務起因性・労災・ハラスメントの可能性を確認した。
- 本人に説明し、意見を聴取した。
- 社労士・弁護士等の労務専門家に相談した。
- 判断根拠と経緯を記録した。
よくある質問
Q. 休職期間満了なら自動的に退職扱いにできますか?
A. 就業規則に定めがあっても、復職可能性や会社が行った支援・配慮の内容が問題となり得ます。個別の事情を踏まえ、専門家の確認を経て判断することが重要です。
Q. 産業医が復職不可と判断した場合、解雇できますか?
A. できません。産業医意見は就業上の措置を検討する重要資料ですが、解雇の適法性を自動的に決めるものではありません。
Q. 退職勧奨なら問題ありませんか?
A. 退職勧奨も、本人の自由な意思決定を妨げるような繰り返しや圧力があれば問題になります。選択肢と検討経緯を丁寧に示す必要があります。
まとめ
メンタル不調への対応は、健康支援と労務判断を分けながら、休職・復職・勤務配慮の可能性を丁寧に検討することが重要です。雇用終了に関する判断は、産業医意見だけでなく、就業規則、本人の状況、職場要因、代替措置、法的リスクを総合して進める必要があります。
参考資料
- 労働契約法 第16条
- 厚生労働省「こころの耳 事業者向け情報」
- 厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」
