この記事でわかること: 試し出勤の目的、方式、給与・労災上の論点、規程化の実務を解説します。
「いきなりフルタイム復帰は不安だが、少しずつ職場に慣れさせたい」。このような場面で検討されるのが試し出勤制度です。ただし、制度設計が曖昧なまま実施すると、賃金、労災、労働時間、指揮命令の扱いに問題が生じます。
本記事では、試し出勤の目的、代表的な方式、給与・労災上の考え方、規程化のポイントを人事実務向けに整理します。
- 試し出勤は法律上の統一制度ではなく、各社が設計する復職支援の一手法
- 実際に業務を行わせる場合、賃金・労働時間・労災の論点が生じる
- 目的、活動内容、期間、評価・中止基準を文書化する
- 傷病手当金等への影響は、本人が保険者等へ確認できるよう配慮する
- 導入時は就業規則との整合を確認し、専門家の助言も得る
試し出勤制度とは

試し出勤制度は、休職者が本格復職前に生活リズムや通勤、職場環境への適応を確認するための段階的な取組です。法律上の統一的な制度名称・方式があるわけではなく、各社が就業規則や復職支援プログラムに基づき設計します。
| 代表的な方式 | 内容 | 主な目的 |
| 模擬出勤 | 出勤時刻に合わせて外出し、図書館等で過ごす | 生活リズム・通勤耐性の確認 |
| 通勤訓練・職場滞在 | 会社へ行き、短時間滞在するが通常業務は行わない | 通勤・職場環境への適応確認 |
| 短時間勤務での試行就労 | 限定的な業務を短時間で実施する | 実際の業務耐性の確認 |
原則
- 名称が「試し出勤」でも、会社の指揮命令の下で業務を行わせる場合は、実質的に労務提供と評価され得ます。賃金、労働時間、労災の扱いを曖昧にしないことが重要です。
導入前に決めるべき6項目
- 目的:生活リズム確認か、通勤訓練か、業務耐性確認かを明確にする
- 対象者:診断書、本人の意思、産業医意見等の要件を定める
- 期間:開始日、終了日、延長条件、最長期間を定める
- 活動内容:業務をさせるのか、させないのか。指揮命令の有無を明記する
- 費用・補償:賃金、交通費、傷病手当金、労災等の扱いを事前確認する
- 評価・中止基準:体調悪化、遅刻・欠席、症状再燃時の連絡・中止ルールを定める
給与・労働時間・労災の考え方
| 論点 | 確認すべきこと | 実務上の注意 |
| 給与 | 業務提供があるか、会社の指揮命令があるか | 無給とする前に、実態が労働に当たらないかを確認する |
| 労働時間 | 始終業時刻、休憩、出退勤管理の有無 | 実労働を行うなら労働時間管理が必要となる可能性が高い |
| 労災 | 業務性・通勤との関係 | 制度名だけで判断せず、実施内容と移動経路を記録する |
| 傷病手当金 | 休職中の支給要件との関係 | 試行就労の内容により支給に影響する可能性があるため、本人にも確認を促す |
| 交通費 | 支給の有無・算定方法 | 支給基準を事前に決め、不公平感を避ける |
試し出勤は労務・社会保険上の論点が大きいため、制度導入時には社労士・弁護士等の専門家と就業規則・休職規程の整合を確認することが望まれます。
産業医・人事・上司の役割
| 関係者 | 役割 |
| 産業医 | 実施の適否、負荷設定、健康面の中止・見直し基準について意見を述べる |
| 人事 | 規程・書面・給与等の整備、連絡窓口、情報管理、記録の保管 |
| 上司 | 業務をさせる場合の範囲管理、本人の状態確認、過度な期待をかけない受入れ |
| 本人 | 体調変化の申告、決めた活動内容の遵守、無理をしないこと |
運用例:4週間の段階設計
| 期間 | 活動例 | 確認・判断 |
| 第1週 | 自宅外で午前中に活動、通勤経路の確認 | 起床・通勤・疲労の状況 |
| 第2週 | 職場へ短時間滞在、業務は行わない | 職場環境・対人ストレスの反応 |
| 第3週 | 限定した定型業務を短時間実施 | 集中力、疲労、業務負荷 |
| 第4週 | 復職支援プランの最終調整 | 産業医面談、復職可否・配慮条件の確認 |
これはあくまで一例です。全員に同じステップを適用するのではなく、本人の病状、職務、会社の制度設計に合わせて調整します。
よくある失敗
- 「無給の見学」として始めたが、実際にはメール対応や会議参加を依頼してしまう
- 上司が善意で通常業務を任せ、負荷が急に上がる
- 中止基準がなく、本人が無理をして状態を悪化させる
- 傷病手当金や社会保険の扱いを事前に説明していない
- 記録がなく、何を確認して復職判断したか説明できない
まとめ

試し出勤制度は、復職を急がせる手段ではなく、本人が安全に職場へ戻れる条件を確認するための制度です。業務性の有無を明確にし、給与・労災・情報管理を含めたルールとして設計してください。
よくある質問
Q. 試し出勤中は必ず無給にできますか?
A. 一律には言えません。会社の指揮命令下で実作業を行わせる場合など、実態によって賃金支払いの問題が生じ得ます。制度名ではなく内容で判断します。
Q. 試し出勤中に通勤災害は起こり得ますか?
A. 実施形態や業務性との関係により判断が分かれます。制度導入前に、実施内容・通勤経路・連絡方法を明確にし、必要に応じ専門家へ確認してください。
Q. 産業医が試し出勤を指示できますか?
A. 産業医は健康面から意見を述べますが、制度の実施・給与等の最終設計は会社側が行います。
参考資料
- 厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
- 厚生労働省「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」
- 独立行政法人労働者健康安全機構(JOHAS)「職場復帰支援にかかるモデルプログラム」
- 労働安全衛生法、労働契約法、個人情報の保護に関する法律(個別案件では最新の法令・通達を確認)
